_日付の欄に29日と打ち込んで,そういえばそんな日付はないのだと思った.三度目.あって欲しかったのか良く分からないけど.嫌な風に時が過ぎていくように感じられてあまりよろしくないのかもしれない.冬は過ぎ季節は春へ.暖かい季節はあまり好きではないが,でも移ろいゆくことは悪くない.春が来て夏を過ぎ,また秋も訪れるのだろう.私は逆の季節を思うことが多い.
_そういえば.今のシステムは29日と打っても1日と自動修正されるようになっていた気がする.13月なら翌年1月になるはずだ.曜日を求めるためにそのようにしたのだった.間違えないのはいいことだが,間違えないのは面白くない.
_最近,かどうかはともかく,新しくイヤホンを買ってきた.イヤホンていうか,イヤフィットヘッドホン,なのかどうか,正式な名称は知らないけど.ヘッドホンとイヤホンの中間みたいなやつ.早瀬さん進学祝いオフの時早瀬さんが持ってた奴って言えば分かる? そんなん余計分からんて.入江さんが持ってたみたいなイヤホンもよさげではあったんだけど,出歩くためにはボリューム調節が必須というのが難点.それ以前に見つからないのが難点.その上いくらなのか知らないが高かったら値段も難点.でも,イヤフィットヘッドホン,なのかどうか,正式な名称は知らないけど,それならその辺は難点じゃなかったのかって言われると厳しい.
_で.そのイヤフィットヘッドホン,なのかどうか,正式な名称は知らないけど,とにかくそれ.ずっと敬遠していた理由は,眼鏡掛けるからこれ以上耳に何か掛けたくないっていうのが理由だったんだけど.その敬遠理由はあながち間違いでもなかったような.いや,痛いの.耳が.どちらかというとイヤフィットヘッドホン,なのかどうか,正式な名称は知らないけど,こいつより眼鏡のフレームが悪いんじゃないかっていう意見はもっともなんだけど.それでも耳に掛かる質量が増えるのは避けられないと言うか.ケーブルの質量も馬鹿になってないんじゃないかって気もするんだけど,もしかして言い過ぎかそれ.
_しかし結局のところイヤホンでも痛かったことに変わりは無く.むしろ12時間以上付けっぱなしな方が悪いって言われたら何も言い返せないんだけどそれはともかく.そんなわけでイヤフィットヘッドホン,なのかどうか,正式な名称は知らないけど,とりあえず壊れるまで使うことにする.予定より早く壊れたらごめんなイヤフィットヘッドホン,なのかどうか,正式な名称は知らないけど.いや,私はどちらかというと物は大切にする方だと思うよ? ほんまかいなそれ.
朝もまだ早かったが,台所にはアランが居て,何やら汁物を作っているようだった.リーの方はテーブルの方で魔方陣と宝石を並べて何かしていた.
「ねえ,リー」
スープを作る手はそのままに,アランが尋ねてきた.
「なに?」
リーはそれに短く答えると,手を休めて顔を上げた.
「いや.スタンリーって言う人,誰かと思って」
「誰も何も,聞いていたんでしょう? 伯父よ」
「君の父さんの兄弟かい? でも,彼はザーヴィアの人に見えたよ.君の父さんは――」
「母さんよ」
アランの声をさえぎって,リーは言った.また視線を並べていた宝石に戻し,魔方陣の上に並べる.
「え?」
「お母さんのお兄さんらしいの」
アランの声は続かなくなり,しばらくの間アランが鍋をかき混ぜる音や,リーが宝石を並べる音が静かにその場を支配した.アランは粉状の何かを鍋に入れ少しかき混ぜると,杖を振って火を消した.
「さて,今朝のは一味違うぞ」
アランはそう言って,出来上がった汁物を椀に注いでリーの居る席まで持ってきた.湯気を立てていかにも美味しそうである.
「いつもそう言ってるわね」
「いつもそうだろう?」
「そうだけど」
もう恒例化したやり取りを交わして,リーはそれを飲もうとする.
「あったかい……」
リーは椀に手を掛けて,ふと笑って言った.アランはそんな笑顔を見て毎朝自分は世界で一番の幸せ者であると確認するのだった.
「だが,今朝のはもうひとつ違うのだよ」
何か自慢げにアランが言う.リーが椀を傾けて飲もうとするとした丁度その時,アランの次の言葉が続いた.
「今朝のは僕の唾液入りさ!」
「うっ」
危ういところで椀を戻すリー.少しげんなりした表情でアランに食って掛かった.
「……今朝はいつになく気の効かない冗談ね」
「なんだ,口付けを交わす仲だし.今更恥ずかしがることなんかないじゃないか」
「そういう問題じゃないでしょ」
そんなことをいいつつ,結局リーはそれに口をつけた.性質は悪いにせよ冗談だってことは分かりきっていたのだ.
「おいしい.で,今朝の一味は眠り草ね……って,私だからいいものの.お客に出しちゃ駄目よ?」
少し苦笑して言うリー.アランは,冗談が無視されたためか,また一発で味を見抜かれたためか,多分両方だろうが,少しむすっとした顔をしていた.
「何ですぐ分かるんだ」
「あなた,眠り草入れられて分からなかったら大変なことよ? 今までのより一番分かりやすいじゃない」
「……そ,そうか」
「とても美味しいけどね」
「うーん.しかし味を追求すると奇抜なものは向かないのも事実だし……あ,でも量はちゃんと考えてあるよ.一般人には昼寝にちょうどいい位さ」
「ねえ,いつも思うんだけど.なんでまた私にばれない様な味なわけなの?」
「興味本位」
「……前も似たような答えを聞いた気がするわ」
「研究とはそもそもそういうものだろう?」
「そうだけど.あなたホントに学者肌ね」
「良い魔法使いの姿じゃないか」
リーは,アヴェンもそうなりそうね,などと呟いて,飲み終えた椀を置いた.
「で,話を戻すけど」
アランは改めて席に座ると,そう切り出した.
「君の母さんって?」
リーは僅かに目を伏せた.
「私もよく知らない……」
少しだけ沈黙が流れる.
「私もよく知らないんだけど.父さんはある女性を……その.排除するようにという命令を受けたらしくて」
そして,その女性の最期の一言が娘に関する言及だったこと,その女性の兄がスタンリーであること,そして最期に,その娘が自分であるらしいことを言った.
「……本来の親子の関係,なわけか.てことは,本来のお父さんであるべき人は?」
「そこまでは分からないの.スタンリーも……知らないでしょうね.父さんはもしかしたらどこかで感づいていたかもしれないけど……」
「ふむ.ま,いっか.さて,どうやらスタンリーさんが目を覚ましたようだね」
起きたんだか起こしたんだか怪しげだったが,アランは椀を手に取ると同時に立ち上がって,それを片付ける為に台所へ向かった.リーは体の向きを,スタンリーが寝ていた奥の部屋の方へ向けて,扉が開くと同時に,言った.
「おはよ,スタンリー」
「あ,ああ……おはよう……」
扉の隙間からは少し戸惑ったスタンリーの顔が覗いていた.
_誤魔化しも上手ければわざになれる.上手くいかない部分を隠すように表面を取り繕って上手く見せる手法でいう,誤魔化す,である.でなければ,直接的には手品とかだ.他人の目を誤魔化して,いかにも何も無いシルクハットからウサギを取り出したかのように見せる.そういう意味で手品師は,語感は悪いのを承知で言えば,いわば騙し屋と言えよう.だが騙し通せれば嘘も本当になるし,はったりも通用する.嘘をついていけないわけではない.騙していけないわけではない.悪いのは嘘をつくことそれ自体ではない.嘘をついた結果がどうなるのかが問題なのだ.長いこと入院している人を見舞いに行った時,たとえ嘘であれ顔色良くなったねと言ってやるべきなときもあるということだ.
_いちいち言わなくてもそんなことは分かっているさ.問題は,それの使いどころと,それを突き通せるかどうかだ.
_話題の宣伝ムービー.新海さん作の.さすがに良い出来の模様.これはいい.つい数回見てしまった.アニメの部分てどうやってんだろねなどと思ったりもしつつ.ただ,BSFの時も思ったけど,これ映像に曲が付いてきてない気もしないでもない.要するにもう少しいい曲だったらもっと良かったのにな,という感想.もっとも個人的な好み語ってるだけでしかないんだけど.
_それにしても,これはあくまで宣伝ムービーのはずだが,中身が宣伝なのかどうかは微妙な気がする.つまりこれを見ていいムービーだな,とは思っても,面白そうなゲームだな,とは少々思いにくい気がする,という意味だ.そりゃ,もちろん受け取り方は人それぞれだろうが,どちらかというとこれ,その存在自体が宣伝.あちこちにミラー立つわこうやって日記で噂になるわ,確かに知名度だけはがんがん上がってそうだもの.ま,むしろそれが正しい姿だっていう意見もあるかもしれないけど.とりあえず,上げた知名度を負方向にしないようにゲーム本体も頑張ってね,と言っておこう.
_どうやら家族もボール式マウスはあんまりにも使いづらいっていうので,光学式マウスを買ってくることにした.マウスみたいな直接手に触れるような部分はちっとくらいいい物を揃えたい感じだったのだが,結局安物を選ぶ.何気にジャンク品っぽそうに乱雑に袋詰めの.普通に売ってるのと比べてどうせ数百円の差ではあったが,使えればいいか程度で買う.なんだよいいの揃えたい感じではなかったのか.感じだったのは確かだが感じだっただけってことだなきっと.
_それはともあれ,動きは良好.ボタンも前使ってたのよりよさげ.と,とりあえず安かった割にいい具合なのだが,唯一ホイールが妙.絶妙.ちゃんと動いてはいるのだが,妙に軽いのと,時々反応が鈍かったり反応しなかったりする.親は動いているんだしこれで十分だと主張するのだがイマイチ気に食わないのである.何がいかんのかしらんと思いつつ,買われて数十分もしないうちに分解されるマウス君.哀れ.中を見るにどうやら普通のホイールであるようだ.そんなわけで,もしかしてサイズとか合っちゃったら今まで使ってたボール式マウス君のホイールと交換できないかななどと思ったりしつつ,試してみてもし出来たらめっけもん程度の気持ちでMicrosoft製のボール式マウス君を分解...分か...あれ?
_むう.ねじ穴が無い.これはお約束のシールの裏というやつだろうかと思ってみるも,どうもそれらしき雰囲気はない.いや,実際に剥がしたわけではないのだが面倒だったのでごそごそ探ってみただけだけど.てことは機械仕掛けで引っ掛けてあるだけなのだろうかとぐいぐいやってみるが開かない.そういえば,掃除する時もボールが外れるだけで分解できなかったから面倒だなと思いつつやっていたのだっけ.どうせ使わないのだし思い切って壊してしまおうかとも思ったが,まだ使えるには使えるし,ホイールが交換できちゃったりする可能性もそう高くはなさそうだったので,とりあえずは諦めることにした.命拾いしたな,ボールマウス君...とりあえず苦情が多いようならまた考えようっと.シールはがしたらちゃっかしねじ穴出てくるかもしれないし.
_毎度ながらCSSは便利なのか不便なのか.最近少しずつCSS仕様になってきているこのサイトだが,中途半端に再生してくれるブラウザ使ってる人には多分凄いものが見えてるのだろうなと予想.逆に完全にサポートしてないんだったら,それなりに普通に見られるはずだけど.ようやっとCSSの使い方が分かってきたのかどうなのかといったところだけど,古い日記とかなんかはさすがに手直しする気も起きない.あと音声系とか印刷系とかそこまで考えろっていわれるとさすがに面倒が過ぎる.
_とりあえずCSSはCascadingなところがポイントの模様.ともあれ上手く使えるなら利点は多いのだろうけど,今までの形式と大きく違うから,結局感覚が慣れるまで苦労する.いやもしかしてそもそも真面目なHTML書いてなかったんがダメですかごめんなさい.あと,推奨する使い方とかいうのは,どうにも漢字の書き順に通ずるものがありそう.従えば上手く使えるだろうし,綺麗な形の漢字が書けるかもしれないけど,いちいち書き順まで覚えてられるか読めればいいんだ読めれば,っていうのは正直な感想だと思うのな.もっとも最大の難点は中途半端にCSSを再生しやがるブラウザの存在なのだろうけど.あと過去遺産の移行が面倒.
_ところで,HTML 4.01 Strictの<blockquote>って,普通の文字列を内容物にしちゃいけないってそれホント? 全然知らなかったよ.どうやって使うのよ.中に<p>とか入れるわけ? なんか妙にかっこ悪い気もするけど,よく考えたら長文引用となると数段落ってことになりかねないか.だとするとそんなもんなのかなあ.一段落程度だったら<q>を使えっていう意味か.長いとか短いとかっていうのは結構主観入るだろうし,その辺難しいところやねんな.
_酷く思考が悪化している気がする.駅から家まで,普段バスで移動する道のりを最近わざわざ歩くのは,家の中に篭りがちで大変なことになっている体力維持のためという建前的な理由とか,バスに乗るための金すらないとかいう妙に切実感の漂う理由とかなのだろうと思っていたのだが,今日は少し違うように思えた.多分,そちらの方が楽だからだ.もちろん体力的な問題を言っているわけはない.そちらのほうが精神的に楽なのだ.それほど人通りの多い道ではないので,春先の割に妙に冷たい風にあおられながら,太陽の光と陰との間を一人で歩いてゆける.似ていても季節は秋のほうが良い.だが移ろい行くのは嫌いではない.
_たとえばときとしてとても魅力的なものに出会うことがある.それは,私はいくつか見て回っている日記や雑記の類に酷く無造作に転がっていたりする.だがとても情けないことに,まるで道端で美しい宝石を見つけたかのように喜ぶよりも,どうして自分はそのようになれないのかということを憂う.自分もあのようになりたい,というのよりも先に,なぜあれらはあれほどに輝くのかという嫉妬の念が走る.嫌だ.そんな風に思う自分が嫌だ.そんなことを書き散らす自分が嫌だ.何も知らない自分が嫌だ.何も出来ない自分が嫌だ.嫌なのだ.酷く.
_思ったより冷静だな,などと前日を読み返して馬鹿なことを考えてもみる.別にどうでもいいか.だがそうすると今日が書き辛いというのは実際にあるのかもしれないが.もう少し考えるべきだったのかもしれないが,それでも,考えた結果ではあるのだ.それがいかに愚かな結論だったとしても.
_秋桜の空に.幸せだ.いかにそれが一般常識に照らすとおおげさであっても,彼らは本当に本当の幸せな日常を送っている.問題は一般常識に当てはめてどうかではない.物語の登場人物にとってそれが普通でそれが幸せであればいいのだ.例えば現実にこんな激甘ねえちゃんいねぇよ,は意味を成さない.そこに瑞佳顔負けの激甘ねえちゃんが居て,それが当たり前で幸せであればそれでいいのである.そしてその日常が幸せで大切で素敵なものであればあるほど,それが儚げに零れ落ちていく時には強く心を打つのだ.よくある構図かもしれない,だがよくある理由はそれが明らかに効果的だからに他ならない.
_もしこれが「ONE2~秋桜の空に~」とかだったらそれはそれで正しかったのではないかという気もするのだが,もっとも,間違いなく似て非なるものだ.確かに類似点は多くて比較しやすい.曲はONEの方が良かっただとか,日常の描写は秋桜の方が良いだとか色々言える.だがいかに外見が似ていても重心の位置が違う.すずねえと瑞佳との間には類似点をいくつも指摘できるかもしれないが,瑞佳には瑞佳の魅力があって,すずねえにはすずねえの魅力がある.浩平と靖臣との間には類似点をいくつも指摘できるかもしれないが,そんなものは上っ面だけだ.以下同様である.
_ところで今のところ小鹿シナリオ(ひよ先生じゃないのか!?)と晴姫シナリオを終え,初子シナリオ途中だが,ちと初子は好かん.好かんのだが,シナリオに入りさえしなければ存分に魅力を放つ存在だといえよう.ていうかオマエは忠介とつるんでりゃいいんだよコラ.のこのこシナリオに出てくるんじゃねぇよ.全員終わらないとおまけとか見られないからプレイはするけどさ.ぶつぶつ.ひよ先生もあまり好きではないのだが,小鹿の存在にて特別に許す.ていうか,初期プレイがそうだったから仕方ない.ともあれ,初子さえ終わればあとはカナ坊とすずねえを残すのみさ.
_まあ,そんなこんなで実は妙に詰めが甘いような気もしないでもない微妙な作品ではあるが,ともあれ楽しむなら楽しめる.プログラムの出来具合とかまで考えてしまうと微妙に値段に見合うかどうか怪しげではあるが,一応,有志による互換プログラムを使えば真面目に動くし,とりあえず許せないことはないといったところか.少なくともプレイしている間は泣いたり笑ったりしていられるのだから.
「また面倒な階段だなまったく」
確かに階段に掛かっている魔法は偏屈なものが多かった.掛けている人間が偏屈なのだろうから仕方が無いのかもしれなかったが.
「使う気失せるんじゃないかな,こんなの.えーっと……前来た時と違いやがるな.計算し直しか」
ぶつぶつ言いながら経路と使用魔法を再計算するアラン.二人は最上階へ向かう階段,つまり一級魔法使いかどうかを試す場所に来ていた.
「一級魔法使いかどうか試すには,もう少し簡単な方法があるんじゃないかしら」
さすがにリーもうんざりしたらしい.三級まではよかったものの,二級からは難しいというよりただ面倒なだけだった.
「ねえ,アランさん.これ,計算分割できるわよね.半分ずつやらない?」
そんなことを提案してくる.
「どこで分割できるって……あ,そうか.じゃあ,僕は下をやるから.リーは,上を」
「わかったわ」
結局,妙な魔法を解くのにしばらくかかって,お互い計算結果を交換すると,ようやく二人は最上階までたどり着いた.
「静かな場所ね」
図書館の最上階は,確かに静かではあった.それはそうか,いくら魔法学校の図書館で,そこに居る人間が魔法使いばかりだったとしても,とてもではないが一級魔法使いがそう多く居るわけではない.
そもそも一級魔法使いともなれば極端に数が少ない.仕事に困ることなど無く,王宮へ行けば良い待遇が得られるし,自前で稼ごうと思えばいくらでもなんとでもなるのだから,わざわざ学校に残ることは少しも無いのである.それでも学校にある程度の一級魔法使いが残っているのは,そこにいい研究施設と資料と自由に使える助手,つまり学生が居るからだ.
「……というか,僕らしか居ない」
ともあれ,リーは魔法を走らせて本来の目的である本を探し始めていたようだが,数冊目を通して探すのを止めてしまった.
「目的のものは見つからない?」
「うん,でも……」
「でも?」
聞き返して,アランは,リーが持つ杖は,ある方向を指していることに気付いた.どうやら図書館の支柱のようである.
「……あれ,中身,空洞?」
「え!?」
柱の中身が空洞だって? それはまた随分奇妙な話である.アランは走り寄って柱を調べ始めた.
「確かに,空洞だ……ん?」
妙な魔法仕掛けがあるらしい.と,いつの間にかリーがそれを横から覗き込んでいた.
「これ,もしかしたら,五芳星型の全属性封印かもしれないわ」
「え? いや,それ,機能しなかったんじゃ?」
確かそんなことをやった気がする.五芳星型では全部かけても安定しないはずだ.それでは外れない.
「ううん.いいの.上手く時間をずらせば出来たと思ったわ.やらせて」
そう言うと,すっと杖を掲げて魔法を掛けていく.しばらくすると柱の一部が,あっさりと消え去った.
「……ありゃ」
意外にあっさりと開いてしまって驚く.時間をずらすことで瞬間的に安定するらしい.
それはともかく,図書館にこんなところがあるとはアランも全く知らなかった.もっとも図書館の最上階などそ数えるほどしか訪れていないのだが.
「んー.先生のへそくりでも入ってんのかな.それにしちゃ広そうだけどな……っと」
興味本位で柱を覗くアラン.後ろからリーの声が聞こえてくる.
「多分,何も入っていないわ.でも,下の階まで続いてる.そうでしょ?」
全くその通りだった.暗い穴が置く深くまで続いていて,照明魔法で照らしてみるものの,光が届く先ではよく分からない.
「うーん.良く分からないな.ずっと下まで続いてるけど」
「入っていい?」
確かに人が入れそうなくらいの大きさではあるが,それにしたって入ってどうするのかという疑問はあった.だが何か真剣な表情でリーが尋ねてくるので,アランはつい深く考えずにいいと返事をしてしまった.すると,リーはありがとと一言呟いて,そのまま柱の中に身を躍らせてしまう.
「うわ……本当に行っちゃったし」
そしてそんなことを呟いているうちに,開いていた場所はまたもとの通りに戻っていた.
「ありゃ.一人用かい」
仕方なくアランも,リーのやったことを真似て開く.時間のずらし方がかなり難しかったが,それでも三度目で開くことができた.なるほど,少し考えただけではまるで無理と思えるような組み合わせで封印してある上,技術力が必要なあたり階段に掛かっていたよりも遥かに頭のいい仕掛けだと言えた.
とりあえず声は届くだろうと思い,穴の中に向かって声をかけてみる.
「おーい.大丈夫?」
すると,穴の中からリーの声が聞こえてきた.
「うん.何か,普通の図書室みたい」
どこぞの先生がふざけて地獄に届く穴でも掘ってしまったのかとも思ったが,違うらしい.もっとも,それならわざわざ最上階の柱まで穴を引っ張ってくる必要はない気もした.
「……僕も行っていい?」
……結局アランも気になるのだった.
「どうぞ」
穴の中からの声を確認すると,アランもその中に身を躍らせた.落ちていく間,そういえばあの仕掛けは中から開くのかな,などと,今更のように考えていた.
_喋りたいことは色々ある気がするのだがだからといってそれを上手く喋れるかどうかはまた別の話である.下手覚悟で色々喋ってみてもいいが,読んで分からないの多いだろうな.どうせいつも分からないんだから今更気にすることでもないのか.誰に読まれているのかはともかくとして,少なくとも誰かに読まれていることはいつも覚悟していることのはずなのだけれど.
_私.私.私.私私私.
_一人称を変えることは文体を変えることに他ならないと言ったね.それは一般的にどうかは分からないけど.でも私にとっては紛れも無い事実なの.だけど残念なことに,私には勇気がないようだよ.いや,違うのかな.今ここでこうしているのなら.それは未来に希望を持っていることに他ならないのだと.明日の自分の為に選択肢を残すことだと.そう,思いたい.
_古い原稿を読み返そうと思ったのだが,何気に凄い嫌な気分で読む気にならない.当時はかなり苦労して書いていたはずだが,それが故にどんなことを書いたのか割と覚えているので余計読む気にならないのかもしれない.古い日記,なのか雑記なのかよくわからんがともあれそれはまだそれなりに読めるのだが.でもさすがにサイト開設当時なんかは読んでて辛い物があるけども,半年も経ってしまうと今と大差ないような気がする.半年で自分の書き方になってしまってそれ以来ずっとそのままだという説もあるだろうが,それにしたってもう少しマシな文が書けるようになっていてもおかしくないと思うまいか.もっとも,こんな自分にそれを要求するのは割と馬鹿げているのかもしれない.少しでも良い文を書いてみたいと思うのだが,しかしそう思って苦労して書けば書くほど後になって読めないものになっている気はする.原稿とか.だったら原稿も気楽に書いてしまうかとか思わなくもないが,それはきっぱり別問題なのだろうな.
_そんなわけで過去日記封印してしまうか.ていうか封印したいのは余程原稿のほうなのだが本を買ってくれた人にページを切り取ってくれと言うのは,その,なんだ.変だ.要するに.それよりも,過去日記で実際に問題になるは形式の違いなのかもしれないが.古いHTMLというか,つまりはそういったものだけど.当時から大分気にして書いていたはずではあるのだけれど,それでも妙な部分が多少見受けられるのが問題で,割と恥ずかしいものはある.いや,もちろん今のこれだって未来にしてみれば恥ずかしいのだろうけども.XMLみたいにしっかりした構造だったらPerlとかでパースしてやってどうこう,って話もあったのかもしれないけれど,ただのHTMLではさすがにそれも難しいか.結局は独自形式で記述して,スクリプト通して,とかだと,いつまでたっても使えたかもしれない.誰の許可もなく自分で勝手に変更できるし.なんとなく馬鹿げてはいるけどね.
_と思ったら.参ったことに意外と読めてしまった.困ったものである.要するに成長してないって事かよ.まあ,嫌な気分であることは間違いないのだが,文体自体はそれほど読めないこともない.読み易いかどうかはともかくだ.だが問題は何の感動もないということだな.いや,当時は全く馬鹿なこと書いていたな全く恥ずかしいものだとは思うのだが,実のところそれだけで何か魅力があるとは思えないのである.冷静に見てみるにこれは押しが足りないな.あと間の取り方が悪い.そして間の取り方が悪いもんだから勢いも足りなくなる.見せ場はちゃんと見せねばならん.たとえ文が下手でもそのあたり押さえておけば割と良いものが出来るはずだ.とはいえ,そう簡単にそれが出来るわけでもないのだろうな.むしろ,読んでると成長してないのが分かって嫌か.もっとも,真面目に練習しようともしてないのに成長とかいってるあたり恐ろしい勢いで愚か者なのだけどな.その辺自覚しろよ私.
_先ほど,妹,咲嬢と外を走ってきた.体力作りの一環であるらしい.「にいちゃん,全然運動してないから」とは彼女の弁だが,的を得ていることは間違いない.日々パソコンの前でキーボードを叩いている兄を持てばそれはそれなりに心配してくれているのかもしれなかった.まあ母親の小言みたいなもんだ.出かける前には「暗くて怖いから,にいちゃんについていかないと」とは彼女も言ったが,いずれにせよ置いていかれるのは目に見えていた.
_咲嬢の少し後ろをついて走る私.ていうか,アンタ飛ばしすぎ.なんとかそれに着いていくものの,道のり四分の一も消化せずにぐだぐだ言うことになってしまう.咲嬢が笑って言う.「脇腹痛くなりそう」「もう痛いんですけど……」別にその時点で脇腹は大丈夫だったが,実際先に悲鳴を上げていたのはふくらはぎの方だった.「つか,素直に足痛いんですけど……」「まだ四分の一やてー」下り坂になって勢いを増す咲嬢.とき既に必死の私.別になんてことはない,普段の生活からして分かりきっていたことではあるのだけど.
_「あと四分の一」「馬鹿,まだ半分も来てねえ」実際,半分も来てないくらいでどうやら私にはもう走ることは難しそうだった.というか,半分あたりいくかいかないか程度で私はさっさと歩きに入っていた.もっとも,まだそのあたりでは歩調はそれほど落とさずに済んでいたから,ある程度は着いていけていたのだけれど.「あは,置いてくよー?」「勝手に,置いてけってんだ」息切れして喋りにくい.
_残り四分の一くらいまでは,まだ着いていってはいた.「お前,本気で走ってるか?」「え,本気だよ?」そうは言っていたが,彼女も時々振り返っていたから,多分私を置いていく事がはばかられてゆっくり走ってくれていただけだろう.まあ,少なくとも出かけ前に言っていたように怖かったからではあるまい.街灯は灯っていたから.その証拠に,最後の曲がり角あたりで,私は完全に彼女の姿を見失った.ラストスパートをかけたらしい.走って追いつこうかとも思ったが,よもや日ごろ運動不足の私にそんな体力があるはずもなかった.息切れして顎が上がるどころか,気分が悪くて頭をたれていた.
_咲嬢は家に着く手前の分岐点で待っていてくれた.「えへへ,おかえり」「……疲れました」まだ余裕のありそうな彼女とは裏腹に,私は完全にばてていた.「家に帰ればお風呂が沸いているに違いない」文字にすると実に分かりにくいが,咲嬢の台詞である.このあたりの口調は多分私のが移ったんだろうと思う.「お風呂,沸いてる?」「はいはいはい,沸いてます沸いてます.しっかり沸いてます」玄関を開けて訪ねる咲嬢に,慌てて風呂場へ走っていく母親.どうやらお湯を止めるのを忘れていたらしい.
_疲れた.今日一日走ってきたくらいで体力作りになるはずもない.体力維持にすらならんだろう.体力低下具合をどれだけ軽減できるかだって怪しいものだ.だが,それでも.家族とは良いものだ.そう思うだろう? 「そうかー,今度からにいちゃんを連れ出せばいいんだ」……え,また行くんですか.もう疲れました.ごめんもう許して.
_えと,異次元に移動してしまったのはむしろ私が悪いです.申し訳ない.あと裏返してしまったのもつくづく申し訳ないです.別に怒ってたわけでもありませんですよ.ていうか,実は自分の過去日記読み返したときに目に付いて,酷く気になってしまっただけなんですけど.まあ,色々思うみたいですね.ともあれ回答ありがとうございます.とりあえず私は,それで満足です.それというのは,ナデシコ見れ
ではなく,なゆき堂のときで懲りたので、それはさすがに勘弁していただきたいかなあ
でもなくて,実質、某ホシノ嬢に対する思い入れであったりします。
のとこです.某ホシノ嬢が誰かは知りませんけれども,誰かキャラに対する思い入れだったのだと分かればそれでいいという意味で.他に何か聞いてみたかったことは確かなんですが,その答えならそれ以上聞くことはないような気がします.それにしても,だとすれば私のときもそれと同等の返事をすれば良かったような気もしますね.ま,もっとも私の場合は原点になったキャラなんて名前すら覚えてませんし,そもそも脇役で名前が出てきたかどうかすら分からない程度ですから,あれで良かったのかもしれませんけど.
_それから,感嘆符と疑問符の順序は,私も時々見かけて気にはなってたんですが,KISAさんの場合はどちらかというと狙ってやってるんじゃないかとずっと思ってました.文によってはそっちのほうが効果的な場合もあるような気がしてまして.というか,結構見かけた気がするんですけれど.それが全部KISAさんだったってことはさすがにないと思います.どっちが正しいってことは知らないんですが,なんていうか,その,時には違うのでも確信犯的に使うのは場合によってよろしいというか.いや,ていうかこの確信犯的って便利ですね.しかも「かくしんはんてき」で変換するとIMEってば一発一文節で出すし.単語登録でもしたのかなあ私.そんな記憶無いけどなあ.と思ったらIMEの奴いつの間にか勝手に学習してやがりました.ンなもん学習すんなよ.頼むから.そんなわけで,わざと使うのは場合によってよろしいというか.それにしても言葉って難しい.変化していくし.いずれ確信犯の意味に「何らかの効果を狙ってわざと間違った用い方をすること」とか「狙って行動すること」とか辞書に載っちゃうかもしれません.載ったら笑おっと.そのうち「あ」より前に「(^^):顔文字の一種.表現者が笑顔であることを示す」とか載ったらそれはそれで凄い気もするな.ありえそうで怖いが.
_それと.最近私,雑記では顔文字とか括弧漢字とか縛ってます.チャットでは控えめに使いますけど.いや,縛れって言ってるんじゃなくてなんとなくそれに慣れちまったって話ですが.ただ,それでも使わないと色々無愛想になることは間違いないです.そして色々失敗します.コミュニティによってはむしろ使用しないのを嫌うような場合もあるようです.特にチャットなんかでは文末についている顔文字の類のみで発言の種類を,例えば冗談であるのか本気であるのかなどを判別している感じがします.それが悪いとか到底言えません.むしろそれで判断できるのは凄いことです.個人のポリシーの問題な気もしますけど,こんな文末の顔文字ひとつで余計ないざこざを避けられるのなら,嫌いだと言っていないで使うべきなのかもしれません.でも,見ていて煩わしいと思う人がいるのもまた事実なのでしょうね.
_XHTMLってこれは一体何者なのだ.というか,終了タグが省略できなくなったりとか小文字で書けだとかいうだけの話で一応はHTML 4.01 Strictと同じなのか.もっとも,XMLベースへの移行が目的なのだろうからそうでなければ問題があるのは確かだろう.とりあえずのところ私は終了タグの省略はしていないし,そもそも小文字で書いているので,あとは<hr>とかを<hr />とかに置換してやれば良さそうだ.Perlでなんとかなると思う.だからといって今それにせねばならない理由も思いあたらない.XHTMLもそのうちバージョンアップするのだろうから,段階的にやっていないで一気にひとつ上のバージョンに飛んでもよかろう.それが出来ないほどに文法を変えてしまうとは思えないし,そちらの方が移行の手間が省ける.
_ところでOperaなるブラウザをようやく試してみることにした.なるほど,割と良い出来のようだ.ただ,人間慣れには勝てないので,これを常用するとかいうことはもう少し考えたいところだ.それと,こういうものは実際フリーウェアやシェアウェアの方が出来が良くなってしまう場合も少なくない.なぜなら,大抵それらは作者が既存のものに耐えられなくなって作る場合が多いからだ.
_それはともあれ,自分のサイト見てみたら何気にトップページが死ぬ.何故だ.調べてみるとどうやらwidthの計算が問題らしい.これはUA依存で勝手にしろと決められているのか,Operaが正しくて他が間違っているのか,それともOperaが間違っているのかは良く分からないのだが,ともあれ少しは真面目に見られるようにと思って修正してみた.が,それよりも困ったのはフォントサイズのデフォルト値がmediumではなくsmallになっているところである.そんなのアリか.おかげで文字を小さくしようと思って指定してあったfont-size: small;の効力が全部消えた.標準サイズにしようと思って指定したfont-size: medium;が全部大きな文字になっている.W3Cの勧告にはInitial: mediumとちゃんと書いてあるような気がするのだが私の見間違えか.それともどこかでsmallにしたのが正しくだか間違ってだか分からないが継承されてしまったのか.それともOperaのオプション指定でなんとか出来る問題なのか.意味不明だ.もう知ったことか.とかぶつぶつ呟きつつも一応それなりの処置は施してみた.あとはそれほど凝ったデザインをしているわけでもないので,とりあえずはほぼ意図通りに表示されてくれるようだ.ま,そんなとこか.ところで,これだと迷彩文字って反転しても全然読めないのね...
_あとNetscape4系列はブラウザかどうかはともかくCSS対応とは認めてやらんので,妙に殺風景のはずである.いや,むしろ私のごてごてした無意味なデザインよりもそっちの方が読みやすかろう.実はトップ以外処置してない気もするけど.
_結構日記のファイル数が馬鹿にならないような気がしてきた.一月で3ファイルに分けてあるわけだが,現在54ファイルもある.これが一月でひとファイルというようにしておけば単純計算で三分の一なので18ファイルになる.また同数まで溜まるには三年の余裕が出来ることになる.三年なんてもしかしたらあっという間なのかもしれないが,それでも進み具合が遅くなるのはいいことだ.ファイルを纏めてしまうとどこからか日付指定でリンクしてくれているところが切れてしまいかねないが,それに関してはシンボリックリンクを張れば解決出来るはずだ.リンクにおける外見はそのまま保てることになる.
_とはいえ,やはり困るのはひとつのファイルのサイズだろう.ブロードバンドが普及してきたとはいえ,まだ電話回線を使っている人が居てもおかしくない.今時28.8って人は申し訳ないが無視させてもらうにしろ,56Kbpsでも結構辛いことになる.一月をひとファイルとすると平均して大体80KBあたりだが,最大が130KBなどというものがある.電話回線56Kbpsの実効速度を5KB/sから7KB/sと見積もると26秒から19秒あたり.これはかなり馬鹿にならない.
_が,管理の手間が減るのは圧倒的に魅力的だ.変換の手間はかかるがそれでもだ.そのうちやろう.どうせみんな過去ログなどそう見に行くまい.最新五回分のファイルなら多くたって30KB前後だし許してもらえる範囲だと信じたい.それとブロードバンドの普及に期待だ.
_だがそんなことを考えていると,せっかくだからついでにXHTMLベースに変更してしまおうかなどとも思ってしまう.考えどころだ.順次やっていかないと失敗したとき大変だが,同時に出来るなら手間が省けるのもまた事実だ.どのあたりが効率的なのかというあたり良く分からない.こういう時は横着しないでこつこつと順次やっていくのが一番幸せな結果になると経験的に分かっていても,やっぱり横着したいのである.
_それにしても,なんとはなしに悲しいのは,三年後にはまた同じ悩みを抱えることになるであろうことだ.サイト開設当時ファイルが増えたらどうするかなど少しも考えていなかったが,どうせ今回だって三年後どうなるのかなど考えないのだし,考えたってどうなっているのかなど分からないのだ.少々変化が早すぎるきらいのある世界ではないかと思う.ゆっくりでは面白くないが早すぎては辛い.だがそれでも変化速度は加速していくのだろう.Civilizationのグラフの伸び方は馬鹿に出来ないシミュレーション結果なのではないだろうか.もちろん,実際はどうなるのか分かったことではないのだが.いや,Civilizationのグラフの伸び方が馬鹿に出来ないシミュレーション結果なのだとしたら,グラフ同様に突如あるところで頭打ちになる結果が待っている...のかも,しれない.
_机をひっくり返すほど怒ってみたいものだ.だが私が怒りという感情を外に出すと自分を傷つけることが多い.自分くらい傷つけて見せればいいのかもしれないが大概それの原因は他人を傷つけるからだ.クッションは時折殴るが壁を殴ることは少ない.でなければ,壁は時折殴るが窓ガラスを殴るようなことは出来ない.クッションなら殴ってもそれほど痛くない.相手も傷つきはしない.だから殴れる.壁を殴ったら自分は痛い.だが壁はそう簡単に壊れはしない.だから殴れる.だが,窓ガラスを殴ったら自分も痛いがそれよりもガラスが割れることに私は耐えられない.叩き割ってみたいのは事実だが.もっとも,今時の窓ガラスは頑丈なので私が殴った程度では割れはしないのが現実だろう.
_とても奇妙な気分だ.誰をも責めるつもりは無いのに自分が責められているような気がする.まるで窓ガラスを叩き割ってしまったかのように.
_親子という関係はいつまでたっても親子という関係であろうと思う.親が80で子が55になろうとも親子は親子である.たとえ子の方が社会的地位が高くなったりであるとか,世界的に有名になったりであるとかしたとしても,やはり親子は親子であれる気がするし,そうあって欲しいと思う.先生と生徒だとか,似たことだが師匠と弟子もそうであれると思う.もしかして弟子は師匠を越えてしまうかもしれないし,むしろなによりも師匠はそれを望むのであろうが,たとえそれが叶ったとしたとて師匠と弟子の関係が崩れるものであって欲しくない.皆伝として師匠であるとか弟子であるとかいう関係でなくなったとしても,そういう関係であった事実はなくならないで欲しい.似たようなことが兄弟姉妹,もちろん兄妹なり姉弟なりにもいえるだろうと思うがこの際はどうでも良い.
_言い切り調が続いてしまった.申し訳ないが続ける.
_だから.たった二日ばかり休止したくらいで私が愛想云々などというようなことがあるわけはないだろう.どちらかというと愛想尽かすのは出来の悪い弟子に対してということで逆なのではないかとも思うがまあそれはいい.確かに,正直言ってしまえばこの場合の日記師匠という呼称はかなり冗談半分であることは認める.むしろぽこぽこあちこちで師匠師匠と呼んでいては半分冗談だとでも言っておかねば失礼にあたりかねない.とはいえ,呼ぶのなら呼ぶでそれなりの理由がある.こうやって私がサイトを運営し始められたのはKISAさんと,kojimaさんのお陰であるといって差し支えなく,お二方には強く感謝の念を捧げさせていただく.そして,そのとき貴方を見習って日記を毎日更新しようと思った事実はいつまで経ったところで変わるものではないのだ.だからそういった意味で,たとえどちらかのサイトが閉鎖になるのだとしても,私にとって貴方は師匠であり続ける.
アランの降り立った場所は,薄暗かったが普通の図書室であるようだった.天井から壁から床からびっしりと魔方陣が描かれている.そのなかで長い銀髪がゆれるのが見えた.
「……地下室」
これは噂の地下室か.なるほど,噂には聞いていたがこんな風に隠してあるとは思いもしなかった.地下室と聞けば普通探すのは地階からだろう.だが落ちた距離を考えるとここはかなり深い場所のはずだ.地面に穴を空ければ簡単そうだが,ただでさえ深い上,あの天井の魔方陣がある限りそう簡単にここには来れまい.魔方陣が専門のアランでも知らない魔方陣もいくつか見られたが,とにかく強力な防護魔方陣であることは理解できる.描くのに相当の苦労を要したはずだ.進入防止と,あとは湿気や火気の防止が目的だろうが,それにしたって凄い念の入れようだ.
「……いいのかなあ.僕らこんなところに入っちゃって」
頭の後ろを掻くアラン.責任を取るとは言ったが,妙なことにならなければいいが.部屋一杯に描かれた魔法陣のお陰で逃げるのも容易ではなさそうだ.
「ま,なんとかなるだろ」
適当なことを言って自分も本棚を見て回る.古い本で文字が削れていたり,また文字が異形だったりでアランには読めないものが殆どだったが,それでも奇妙に呪いの本であるとか,儀式の本であるのか,確かに怪しげなものは多いようだった.
「あった!」
と,奥のほうからリーの声が聞こえてきた.アランもそちらの方へ走っていく.
「んー.こんなところで目的の本が見つかっちゃったのかい?」
「ええ……」
リーが呟いたその時.
「誰だ!」
入り口の方から声が聞こえてきた.
「あちゃ.見つかってる」
それでもリーはまだ本を探していた.
「足りない…….一冊足りない…….一体どこへ……」
だが入り口の方から足音が近づいてくる.四方八方この強力な魔法陣に囲まれていては逃げ場も無い.しばしの後,本棚の影から三人の魔法使いが姿を現した.おそらくこの学校の教師だろう.
「お前ら,こんなところで何をやっている!」
「あ,いや,これは,その……うーん」
狼狽はして結局事態の説明がままならない.いや,狼狽していなくても事態の説明はままならないのだが.
「アラン!?」
「はい,アランです.……って先生」
言って顔をしかめるアラン.どうやら知り合いの先生らしい.
「アラン.一体これはどういうことです?」
「あー.いや.そこの女の子がですね……」
参った.まあ別に学校が下す処分くらいはどうでもいいのだが,リーがどうなるやら心配ではある.
「最後の一冊はどこ?」
と思ったら,その女の子は凄い形相で教師三人をにらんでいた.
「一冊足りないわ.父さんの本をどこへやったの」
教師たちは意味も分からないまま雰囲気におされてたじろぐ.それに詰め寄るリー.左手には杖を持ちそれを突きつけ,右手には保存状態の良さそうな本が二冊抱えられていた.
「……何のことだ? それよりも本を戻しなさい」
「馬鹿なことを言わないで.これは父さんの本よ.三冊あったはずなの.もう一冊はどこ?」
教師たちは顔を見合わせる.
「いや,落ち着きなさい.とにかくここは……」
「出しなさい.出さないのなら力ずくででも貴方たちを眠らせて探すわ」
「わ,止めてくれ,リー!」
アランの制止の声はほんの僅かばかり遅く,リーは教師たちの方へ飛び込んで行った.
_本棚の空きが足りない.ライトノベルが結構ある.冊数的には170程度で,これを多いと見るか少ないと見るかはともあれ,本棚に対する場所的にはかなりの場所を占めているのだ.あと,本棚にCDが進入してきたこともかなり余裕を減らしているような感じだ.というわけで,贅沢に空間を使うためにどれだけか処分することにする.ライトノベル10冊ほどを妹に押し付けて解決.うむ,実に安直だ.あとはCDを何とかせねばならん.のだが,なかなか片付かないもんである.いや,これでも片付いてる方だと思うのだけど.どちらかというと別のものを片付けてCDをそちらに移す方が幸せであれる気はする.
_しかし本もCDも増え続けるのだろうなあ.
_自らの思いを言葉に出来ぬもどかしさというのがあろう.それは表現力の不足であることもあるし,内容が酷く醜いからであることもある.後者は少なくとも直接的な表現は絶対に出来ぬ.するなれば小説だとかそういった形式になるだろうがそれをするにあたって前者に引っかかる.いずれにせよあまり面白くはない.
_最近は人を羨むことが多い気がする.いつからそうなったのかというよりは,むしろ私はずっとそうだったのだろう.ただ世界が見えていなかっただけだ.他人の凄さや素晴らしさが分からなかったから羨む必要も無かった.むしろ,羨みたくなかったから,見なかっただけなのかもしれない.悔しいという感情を持つものの,それがそのまま,ならば自分もそうなれるように頑張ろうという思考へ繋がるわけでもない.これがそのように繋がるのなら,きっと私が羨む人のようになれるだろうなどと,酷く傲慢だが,思ってしまう.
_だが羨んでいる内容は良く考えたら何なのだろう.確かに,例えばいい文章が書けるだとか,例えばいい絵が描けるだとか,そういった割と直接的な内容を羨むでもあるだろうが,それよりも,そうなれるまで何かを頑張ってこれた,その根本的な部分を羨んでいるのではないか.その人がどのような努力をしてきたのかは知らない.努力というよりも,単に好きで落書きしていたらいつのまにか上手くなっていたという人だっているかもしれない.でも,その好きで落書きを描いていた,少なくともそのような事実はあると思う.私はその成果よりもその経過が羨ましい.例えば好きで落書きしていたこと.つまり絵を描くことが好きでいられたこと.例えば血の滲む様な練習をしてきたこと.つまり練習に耐えてこられたこと.それが.
_自らの過去を省みてみればそれはそれで何かやっていた時期もあったような気がする.だが今はどうだ.まるで死人だ.努力せよとか格好良いこと言っても良いが,その前に言わねばならぬことがあろう.何かを好きになれ.嫌いなのでは始まらない.
_いや.そう,何かを好きでいられることが羨ましい.
_秋桜の空にを一通り終える.いや,本編はもっと前に終えていたのだがおまけだけ残っていたのだ.が,もっともおまけは所詮おまけでしかなかった.まあ,本編許したんならついでで許せる程度な気はする.感想ページに何か書いてみてもいいくらいの出来ではあるのだが書く気にならない.プレイ直後の素直な感想を書いておけばそれはそれで意味があるのだろうと思うけど.ICOも書いちゃいないし.AIRはもう書けない.そのうち気が向いたら書くと思うけど多分書かないのだろうな.色々減衰しかしてないこの頃.
_あとは,ちまちまとプレイしてたRezだけど,こいつはarea1で23万超えた時点でなんか妙に満足してしまってスコアアタックはそこまで.エンディングは白蝶.桃蝶エンドの条件は満たしたつもりだったんだが上手くいかなかった.それと,beyondにboss rushとか出て結構面白そうっぽかったのでやってみた.どうやら全部Gigaなんで,倒すだけならなんとかなるだろうとたかをくくっていたらスコアが表示されてちょっと稼ごうとしちゃったりしつつ何気に火星にやられてる風味.ダメじゃん.スコアが表示されると妙に意識してしまうのがダメなのかもしれん.次は確か天王星にやられた.とりあえず倒すだけ倒すだけと思ってプレイしていても,なにせダメージ受けてもプログレスアイテムがないので回復のしようがないという罠が.しかもオーバードライブ無し.結構きついんじゃないの,もしかして.まだboss rushのEDENは見たこと無し.だって金星にたどり着く頃には何故かよくわからんがいつの間にかzero formだし.そのあと金星か天王星で何故かダメージ受けるのでそこで終了なんだもん.なんだかなあ.
_ひでぇ,ひでぇ.酷すぎる.扱いが酷すぎる.などと思いながら読み終えるウィザーズ・ブレインの二巻.いや,褒めてる.物凄く褒めてる.どこぞの酷いのとは反転した酷さで,あんなのとは比べ物にならんほど肌触りは良い.というかどこぞのは触るに耐えん.それにしてもこの形式効果抜群だな.それとも私にとってだけだろうか.私は感化されやすいのでアレだがそれにしたってまるで黒く溶けていきそうだ.現実に引き戻された時また馬鹿げた不快感が襲うがそれもまた仕方あるまいか.ところでanemoscopeとornithopterなあたりがなんともいえんのだがいずれにせよそんな雰囲気ではなかった.でなければ,まるで一度取り込んでから加工して出力したかのようで,やはり別物だ.こんなこと書かれると一巻に栞を重ねるのも不思議ではないのかもしれないと一瞬納得しそうになってしまったが,いずれにせよ,もし入力がそうであったとしても,出力はちゃんとしてると思う.大丈夫だ.現実に引き戻された時の不快感は如何ともしがたいが,まあそれだけよく出来てるってことだろう.
_別に私は活字中毒とかいうわけではないが,それでも本を読むことはそれなりに嫌いではないようだ.少なくとも外に出て走り回っているよりは余程本でも読んでいた方が,という程度には.もっとも本の中身は別にそうたいそうなものでもないと思うのだけど.それにしても最近久々に本を読んでいた気がしてならない.というのは,ディスプレイたる発光体ではなくて,印刷物たる反射体でという意味だが,これがまた疲れ具合の違いは如何ともしがたい.発光体は疲れる.CRTに耐えられなくなって液晶にして,まあそれなりの効果はあったんじゃないかと思うがやはり紙にはかなわん.最近紙状のディスプレイ装置とか色々開発されつつあるようだが,一般向けに売り出されたら多少高価だろうが白黒だろうが是非手に入れたいと思う.もちろん,多少高価でもいいとはいえど,私の手の出せる範囲といったら随分安くなってからに違いないが.
_世界とシェリル嬢を私有化すると宣言した.そして同時にデリックの引取りを突っぱねた.もっとも相手からの返事はないので一方的な宣言でしかないが,相手からの返事は期待できぬ状態だし,それに不当な要求でもなかろうということで受理されたものとする.というか,そもそもが私の私有物ではあったのだが,共有していた以上は勝手なことはしたくないと思っていただけである.今度その共有がなくなっただけだ.また誰かと共有しても面白いと思うのだが相手は多分いない.良い勉強になったと納得することにする.そいやリズについて明言しなかったのだけど,一緒に私が持っていてもいいのかな.
_結局本棚を整理する.はみ出し上等とは言うしそれ自身に納得しないわけではないが,単に性格として片付けたいだけなんだろうと思う.片付けるのはそれなりに嫌いじゃないって言うか.割と片付いているように見えて散らかっているような,散らかっているように見えて片付いているような,いやまあ,なんやよくわからん部屋ではあるが.それでも床は見えてる程度には片付いているか.世間一般男の子の部屋としてはそれなりに片付いてると思うのだが,そうでもないのだろうか.そいや入江さんところはかなり片付いてたしなあ.そのあたり考えると私の部屋の片付き具合など大したことないのかも知れない.
_二度と読まぬと分かっていようとも思い入れのあるものはなかなかに捨てられない.が,まあほどほどにしておくかというようなのはそれなりにあったので,今度古本屋あたりで捌くかというのを纏めて引っ張り出す.シリーズごっそり抜いたりすると結構空くもんだ.それにしても,一度は読んだとはいえ,内容は全然覚えておらんのだな私.読み直せばそれなりに思い出すのやもわからんが,そういえば,殆ど完全に忘れていてまるで二度楽しめてしまったような美味しい作品もあったな.いや,それで美味しいって言うのはどうよって気もするのだが.大体感覚でおぼろげには覚えてるんだけれどね.印象に残ったシーンだとか.それにしても,ぺらぺらとページをめくっていたら,見つけてしまった.リーという名の女の子を.話の内容など殆ど覚えておらんのだが,それでも言葉にして表せぬような何かは残っているものなのやもしれぬ.
_して,空いた本棚にCDを突っ込んだり,また新しくイリヤとか買ってきたり.どんなに片付けても見た目に大差がないのが私の部屋の特徴のようである.原因は,引き出しの奥であるとか,ぱっと見では見えないようなところが開いたり埋まったりして調整されているからであるらしい.
リーは教師三人に突っ込んでいくと,杖を振って左側の教師の腹に打ち込み,右側は脛を強く蹴飛ばした.そのまま勢い衰えさせずに杖を返して中央の教師の額を突いて,後ろに倒れたところを軽々と飛び越える.壁に手をつき勢いを反転させ直角に体を回転させると,今度はそのまま入り口の方へ向かって走っていった.
「お,おい……」
あっけに取られた教師三人とアランだったが,アランは状況を把握しようとして教師たちを飛び越え,本棚の影から顔を出して入り口の方を覗いてみた.するとリーは丁度入り口にたどり着きそうなところにいて,とたんに静止した.すっとリーの目の前に白髪白髭のいかにもといった感じの初老の男が入り口の縦穴から降り立って,リーはその男の首筋に,杖の尖った方を突きつけて言った.
「王手」
アランには初老の男は見覚えがあった.学長だ.長い白髪に豊かな白髭というあまりにもいかにも過ぎる風貌だとアランは思っていたが,と,言うか,そんな風貌のせいで初老に見えるが,実際彼はまだもっと若かったはずだ.しかしどうやら本人は好きでそうしているらしい.
「……で,いいのよね」
「ううむ.威勢のいい嬢ちゃんだの.こりゃ参ったわい.降参じゃ,降参」
学長は杖を放り出して両手を力なく下げた.魔法使いが杖を捨てるということは,まず間違いなく言葉通りの降参を意味していた.魔法使いによっては魔法以外にも体術や剣術など心得ている者も居て,そういう場合には相手を油断させるための罠である可能性も否定できないわけだが,この学長の場合はまるでそうは見えなかった.
それでもリーは杖を突きつけたまま尋ねた.
「もう一冊はどこ?」
「む?」
学長は顔をしかめて視線を巡らす.目の前の嬢ちゃんは知的好奇心の高い魔法使いで,ここの禁書の類が欲しくなって持ち出そうとしていた現場,だと彼は思っていたのだが,そのリーが持っている本を見て気付いた.どうやらそういうのとは事情が違うらしい.
「なるほど」
首筋に突きつけられている杖も気にせず学長は頷いた.そしてリーにしか聞こえないような小声で言う.
「そなたが魔道士オーヴェルの娘リヴィアか」
だが,今度はリーが眉をひそめる番だった.
「……私はリーよ」
で,次はまた学長が眉をひそめるの番.どうにも双方に認識のずれがあるようだ.して,そこで学長ははたと気付く.なるほど,あの魔道士は彼本人と娘の名を自分語っておきながら,その娘本人にはどちらも語らなかった,ということらしい.なんと紛らわしいことをする奴か.これではまるで別人という可能性が否定できない.
「……ううむ.困ったものじゃ.とりあえず落ち着きなさい,リーとやら.そなたの求めるもう一冊はわしが持っておるぞ」
リーはしばらく学長を見た後,確認するように言った.
「ちゃんと渡してくれるのね」
「うむ,まあ,今はなんとも言えぬがな.そなたが本当にその本の持ち主だった者の娘であるのなら,渡そうぞ」
リーは少し迷ってから,突きつけていた杖をはなした.
「……お父さんを知っているの?」
「まず間違いなく,な」
学長は先ほど放り投げた自分の杖を拾って,頷いた.
「……お父さん……」
リーは俯いて,少し寂しげな声でそう呟いた.
彼女は何も言わなかった父親を少しばかり恨んだ.まるでどこへ行ったのかも分からない.どこにいるのかも分からない.ただ二度と会うことは無いとそれだけ言って,自分を置いて出て行ったのだ.
「お父さんのこと,知ってるのなら.何でもいいです.教えてください……」
リーは態度を一変させてそう懇願する.
「そうだな.出来うる限りのことは教えよう.だがわしは大したことは知らぬぞ」
目の前のこの男は,少しは何か知っているだろうか? 手掛かりが父親の残した三冊の本だけだったのに比べて少しばかり先が見えたような気はしたものの,どれだけ期待できるのかなどは全く分からなかった.
「アラン.入り口の仕掛けを解いたのは君か?」
学長は,始終良く分からないといった顔でこちらを眺めていたアランに言った.
少し呆けていたようなアランは,はっと目が覚めたようにびくりとして,慌てて答えた.
「はい.いえ,その女の子が開け方を知っていたようです」
「そうか」
学長は頷くと,入り口の方へ向いた.
「だがもう開け方は分かっているな? 内側からも同じ方法で開く.あとでわしの部屋に来い」
「はい……」
アランの返事を確認すると,学長は浮遊の術で入り口の縦穴を登っていった.そしてその後をリーが追う.アランは周りを見て,教師三人がようやく立ち上がったのを確認すると,お先に失礼しますとお辞儀をしてから入り口の方へ向かおうとした.
が.先に行ったリーはローブ姿で,たとえ暗がりとはいえそれを下から追いかけるのは色々失礼だよなとか馬鹿げたことを考えて,止めた.
_イリヤを読んでた.電車の中で.もっとも,今のところその1の半分くらいだけどな.それにしても困るのは,電車の中で読んでるとどうにも顔がにやけたりだとか噴出しそうになってしまったりだとかしてしかもそれを堪えようとしたりして全くもって変な人になってしまうということだ.あと,目的地に着いてるのに気付かないだとか.妙に見慣れた風景だなと思ったら既に目的地でやんの.もっとも今回は降りそびれたりはしなかったが,いつそうなるか分かったもんじゃない.
_しかしまあ,なるほど.いい.なんともよく出来てる.参った.なにせ電気の味がするらしいのだ.確かにになんてことはない,電気の味で,なんとなく電気の味と言われると分かる感じなのだがそれでも電気の味らしいのだ.そして入部届けである.いや,入部届け自体はどうでもいいのだが,ともあれこの人どうやらこういうのは滅法得意らしい.間もしっかり取れてるし,取れすぎてる気もしないでもないのだがこれはまず間違いなく狙ってやってる.こうなると勢いで猫の地球儀からE.G.から全部揃えたいような気にもなってくる.揃えたいというのは当然ながら所持しようかという話なのだが.というか一応借りては読んだのだが.しかし何故売っていないのか理解に苦しむ.鉄なんてめっきり見ない.さまよえ虚像はやたら山積みなのに? いや,それあまり関係ない.
_うーむ.驚いた.いや,何を驚いたのかってそりゃ,自分の妹がこんな上手い絵を描けるとは知らなかったのであるよ私は.ついこのあいだ見たときはうむ私より余程上手いがまあ子供の絵だなしかし私の妹では仕方あるまいとか思ってたのにである.もしかしてもう数年前の話なのだろうか.そうかもしれん.美術の成績で最良を貰ってきたことがあるとかいう話だったか,なんだ,うちの家族ってばそんなに絵の能力があるのか.私も何か描いてみるかおい.ところで私の美術の成績は五段階評価で四あたりをとったことがあったが,こいつは決して絵が上手かったとか彫刻が上手かったとかそういった事実があったわけではなくて,むしろそのあたりが致命的にダメだったのでペーパーテストで挽回を図ったら意外にもというか周りが手を抜きまくってくれたお陰で取れちまったという話である.やっぱ無理だ.
_そういえば彼女小説も書いてなかったか.なんかそれなりに上手かった気がする.むむむ.
_UnLha32.dllは自己解凍形式のファイルもちゃんとLHA書庫として認識します.と,言うか,自己解凍書庫は自動実行の機能で何しやがるか分かんないので大抵解凍プログラムに食わせて自前で解凍しちゃいますけど.の前に,内容物のリスト見たいから食わせることが多いかも.ところでバイナリエディタは便利ですのでみなさんひとつくらいは常備しときましょう.いや,あれ? でも,テキストエディタとバイナリエディタの二つはなんか必須ツールな気がするんですけどそうでもないですか.どちらかというとOSに付けとけよバイナリエディタくらいとか思ったり思わなかったり.なあ,窓さんよ? そいや,バイナリエディタは自分で作ろうとして失敗した記憶があるな.常時二つ用意してるだけあって,両方のいいとこ取りできたらいいなとは,思ってるんですけども.
_なるほど電気の味はいやそういうことなのかしらんとか思い切り思ったり思わなかったり.私の場合三歳児くらいのときに普通に家庭用100Vの電気通ってるコードを金属のはさみでぶった切って大泣きした経験がありますのであんま挑戦したくないですけど.ところでそのはさみは見事に歯が融けて欠けてますし,切られたコードは父親がテープで別のコードとくっつけたりしました.両方ともまだ残っているはず.
_あとは文体とか言葉だとか.見ての通り私はこんなですが.かといってこれが私の形式ですとか言い切ってみたりとかはどうなんだろうというのはありますけど,まあ,多分そうなんだろうとは思います.色んなところから影響を受けて色々ごちゃまぜになっているようなそうでないような妙なもんで,これが自分独自の表現だとか文体だとかいうのはむしろ無いような具合ですが,もしかしたら色々混ざりに混ざったこれが自分のです,とか言ってみたらそれは色々正しい気もするようなしないような.もっともまだ影響を受け続けてますけど.何言いたいんだかわかんなくなってきたな.伝えたかったことは,Shunさんの今の形式は読みやすくて気に入ってますよというあたりのはずなんですが.もっとも,言い切り調で書かれたShunさんの文を見てみたいとかいったらそれは純粋な興味の問題としてありますけど.そうせよとかそうした方がいいとかというのでは全くなくて,Shunさんがそういう風に書いたらどんな文になるのだろうという興味の話で.はい.
_どうやらExrougeのファームウェアアップデートが出たらしいので拾ってきて入れてみる.とりあえずのとこ設定項目とかが多少増えたような感じらしいのだが別に昔ので困ってなかったには困ってなかった.私にとっては特に目に見えて便利になった,とか言うことは無いけど,まあ,なにやらバグも取れたとかなんとかという話なので入れて損はなかろう.いや,バグ取りが新たなバグを呼ぶのはよくあることだが.
_いや,そんなことはともあれ,一番大きな改良は転送速度のアップだ.一番の不満点だった転送速度が解消されればそれに越したことはない.で,試してみたら,100KB/sが130KB/sになった.なるほど.確かにアップしてる.当社比1.3倍ってやつだ.開発側からすれば劇的な速度向上だけど使用側から見るとこんなもんかってところか.USBの転送速度って12Mbpsでしょ,理論値だからまるまる12Mbps出ないのだとしても,大体1MB/sくらいは,出てもおかしくないんじゃないの.とか思うんだけど多分開発側は色々苦労してるんだろうな.まあともあれ,ファームウェアのアップデートだけで1.3倍なら良い方だ.少なくとも体感速度で早くなったと分かるくらいには早くなったんだし.そう思うことにする.うん.
_ちまちま読みつつイリヤ.その1了.ちまちま読むのは勿体ない気がするが一気に読んでしまうのも勿体ない気がする.どっちだよ.あと,彼らはまるで中学生ではなさそうだ.確かに高校生である方が通りがいい.ただし,中学生であることの意味ってのは大人の事情という奴であるのかもしれない.まあ,そんなことは分からないが.もっとも,妙なものに慣れてしまったせいかどうも高校生だとして読んでるあたりどうしようもない気もするが,それでいいのだと私は思う.
_前項とは全く関係ないが.なにはともあれ奇妙だ.もしかしたら私も奇妙なのかもしれないし,むしろはっきり奇妙であるのだといって問題ないのだろうと思う.誰しもそんな時があるのかもしれないし,でなければ,みんな病んでいる.もっとも,みんなで病んだらそれはそれで言葉がおかしくなりそうではある.例えば明日の朝目覚めたら私以外の世界人類,いや,地球上で二つの目を持つ動物全部の目が突然三つになっていたとしたら,多分おかしいのは目が三つになったみんなではなくて,ならなかった私のほうなのだ.
_突発多治見オフ.何故かすぐ隣に入江さんがいらっしゃいます.東京から出てきて早瀬さんを追撃.しかも東京へ行く早瀬さんを.ちょっとやりすぎ.ちょっとどころじゃなくやりすぎ.ていうか,ほぼ当日に東京から出てくるってどうよ.明日にはとんぼ返りでまたオフ.いや,素人にはお薦めできないとかそういう問題なのだろうか.まあ,とりあえず多治見で何があったのかは多分本人が語ってくれると思うのでそれを楽しみにすべし.
_あと早瀬さんへ.悪いのは私です.だから今回は処置しました.ごめんなさい.でも勘違いはしないでください.
学長の部屋は至って質素だった.中央に机.それだけ.基本的に普段はそこに座っているはずなわけだが,どちらかというと彼は外出している時のほうが多かった.床は贅沢にも絨毯が敷いてあったが,それほど新しいものでもないようだ.右手奥に扉も見える.あとは日除けの為の布が下ろされた窓が机の背後にある.もしその窓から光が入ってくるようなら,逆光で机に座っている人間は半ば見えなくなる気もするが,もしかしてそれでいいのだろうか.
学長が振り返ると,そこには神妙な,というよりはむしろ真剣な面持ちのリーが居た.まるでさっと部屋の中を一通り確認した後のような表情.もっとも実際その通りだとしてもおかしくなかった.魔法使いは困ったことに,そういう普段からの警戒のようなものが染み付いしまっていて抜けない.
「リー,と言ったか」
「はい」
学長の方を見てそう答えるリーの胸の前には,杖よりも大事そうに二冊の本がしっかりと抱えられていた.いや実際に杖よりも大事なのだろう.そしてその目は,早く三冊目を出せと語っていた.
長い銀の髪.綺麗な白い肌.済んだ青い目.真っ白のローブに白の腰帯.杖は木で出来ていて,先には青い宝石が取り付けられていた.どうやら多重属性らしく,それより少し下に,ぱっと見ではわからないが小さな銀色の玉も付けられている.少女,と言ってやって構わない年頃なのだろう.しかし少女と呼んでよいのか分からない大人びた雰囲気は,まるでアーノルドと名乗ったどこか子供じみた青年のようだった.
アーノルドと名乗った青年はそのあと,自分の名はオーヴェルだと言い,これは魔道士として受け継いだ名前で,同じように魔道士を受け継がせるために娘を引き取ってその娘にはリヴィアと名付けたが,魔道士は自分で終わりにしたいし自分の罪も償わなくてはいけないから世界に会いに行く,だから大切な三冊の本を預かって欲しいと押し付けて出て行った.引き受ける理由は無い上に断る理由ならいくらでもあったが,部屋を出て行くときに振り返って一言よろしくねと言って笑った顔が今でも忘れられない.やっていることはまるで子供だった.でもその笑顔には子供では持ち得ない何かがあると思った.
学長はきびすを返して奥の扉へ向かった.取っ手に手をかけ,だが開けずに振り返った.リーと目が合った.学長は尋ねた.
「その本の題名は何だね?」
リーの顔色がさっと変わった.彼女の狼狽振りは手に取るように分かった.
彼女は完全にこちらの意図を汲み取ったようだ.要は試しているのだ.お前は本当にあの青年の娘なのかと.それを証明してみせよと.
少しの間.二人の間は廊下から聞こえる雑音が支配した.多分彼女は色んな事を一瞬にして思考したはずだ.ここで答えられなければ本は渡してもらえないのだろうか.渡してもらえなかった場合は,やりたくはないが目の前の白髭をどけて強行突破するしか方法は無いだろうか.命を奪わず動きを封じる方法のうちどれが有効だろうか.反撃には何が来るだろうか.その際の適切な応対はどれか.その前の返答方法はどれがよいか.強行突破の前にすべきことは何か.少しでも自分が優位に立つにはどうすれば.
意を決したのか,リーが口を開いた.
「分かりません.少なくとも表紙や背表紙には何も書いていなかったように記憶しています.封印を解くことは出来なかったので中までは見ていませんし,表紙の――」
学長ははじめの一言だけを聞くと,あっさりと扉を開けて,中からひとつの箱を取り出してきた.残りの言い訳じみた,だが本を手に入れるために有効な手段だと判断したであろう言葉の羅列は殆ど聞いていなかった.
「開けて確認するがよい.そなたの欲しがっていた本かどうかな」
そう言って,学長はその箱を机の上に置いて,数歩退いた.渡してもらえなかった場合の予測思考が全て霧散して少しばかり拍子抜けしたようだが,またすぐに真剣な表情に戻った.箱の中身は本物だろうか.罠ではないか.そんなことを考えたのだろう.
リーはひとまず抱えていた本を箱の隣に置くと,一通り箱を調べて,それを開けていった.手つきは慎重だったが,どこかもどかしさが感じられて微笑ましかった.まるで小さな子供のようだ.何か贈り物を貰って中を楽しみにする子供のような,そんな開け方.きっと,本を守るために施してある保護魔法ですら,邪魔以外の何者でもないに違いない.
開け終わって,保護魔法も解き終えて,中に収められていた赤い表紙の本を取り上げてそれを何度かひっくり返して確認すると,
「やっと見つけた…….お父さんの本……,やっと…….お父さん……」
リーはそれを胸に押し付けるようにして腕に抱えて,うずくまって泣き出した.杖すら放り投げて.嗚咽の声を漏らして.
しばらくの間.
父を失った女の子が机の前で泣いていた.