感想 |
ねこねこソフトより,銀色.
ええと,始めに一言.世では色々言われている作品ですが,私は大好きです.
絵は癖がある,と言ってしまえばそれまでですが,元々絵が気に入って買った人間としては特に問題はありませんでした.ただどうも複数人で原画を描いているようで,ところどころ癖があるというか,かなりばらつきがある気がするのが少々残念ではあります.音楽はかなり上質だと思うのですけど,ただ曲だけで聞くには少々辛い気はします.でも,ゲーム中にバックグラウンドで流れるという点を考えればそんなことは問題ではなく,元々上質な音楽ですし好きかと聞かれたら好きだと答えます.特に「つかのまのアンチ・テーゼ」「先人はかく語りき」などはお気に入り.ただ曲タイトルをもう少し考えて欲しかった気はします.後になってなるほどと思えるような曲タイトルがついていれば,また愛着が湧いたと思うのですが.少々残念ではあります.システムに関しては,とりあえず及第点というべきか.敢えて挙げる言うなれば,インストールに莫大な時間がかかるだとか,文字が小さくて見にくかったりとか色々言いたいことはあるのですが,通して安定して動いた以上はなにも言いません.あと声も入ってましたっけ.そういえば入っていたなあという程度で特に印象に残っているわけでもないのですけど,それはつまり悪かったところは特にないということです.逆に言えば印象に残るほど良かった部分があったわけでもなかったと言っていることになってしまいますけど.
ストーリーに関しては...どうでしょう,面白いことに,プレイする人によって評価が大きく分かれるようなのです.このゲーム実際にはそれぞれシナリオライターの違う章が四つ用意されているわけですが,それぞれの章についての評を聞いて回ると,各人全然違うのです.一章は全然ダメだけど二章好き,だとか,三章最高だとか三章不要と言い切ってしまったりだとか.でも,どれかひとつの章くらい,気に入るものがあるのではないかな,と,今のところはそんな印象があります.良くも悪くも,一つの作品内部に四つの作品を含んでしまい,どれかひとつくらいなら気に入るものがあるかもしれない,そんな感じです.個人的には第一章が最高のお気に入り.以下全部,私個人の感想です.人によってあまりにも評価が違うので敢えて強調しておきます.
第一章 逢津の垰
先ほども言いましたが,私の最高のお気に入り章.色町から逃げ出した名も無い女に,生きる為に人を斬ることすら厭わない男の物語.設定からして暗いけど,でもね.私はそんな生きるか死ぬかの瀬戸際のようなはかない命の二人の恋の――違う,愛の物語に,深く感動したのです.二人して,生きる意志があるのかないのか良く分からないような状態で,それでも生きてゆく.もしかしたら二人が生きていたのはお互いの為だったのかもしれないと,私は思います.男は斬りたくて斬っていたわけじゃないのに斬らなければ生きていけなかったし,女は,希望が見えなくて自分の世界を望んでいたのかもしれないけど,それで良かったのだと思います.お互いがお互いのために生きようとした物語.ただそれだけで良くて,私はそれだけで満足です.時々流れる綺麗な描写は,暗い背景に対して美しく輝いて見えたものです.
第二章 踏鞴の社
ある意味気に入らなかった章.ただ狭霧が妙に浮いて見えてしまったのが最大の敗因でしょう.私が彼女に人間くささを感じられるほど,描写は人間くさくなかった,のかもしれません.今考えてみれば彼女も一人の人間だったとは思うのですが,プレイ当時はただただひたすら明るく振舞う彼女が眩しすぎて彼女の人間味が見えてこなかったのです.でも主人公には割と共感が持ててよかったと思います.割と常識人で,しかも非常に人間くさかった.狭霧や周りの人間の立場を無視して,ある意味ただ自分のエゴで動ききったともいえる彼は,狭霧とは対照的に人間味があった.だから尚更,狭霧がさも人間でないかのように写った可能性もあるのですが...ともあれ,設定やストーリー的には特に文句は無いのです.ただ狭霧が,もう少し人間くさければなあ,と.
第三章 朝奈夕奈
個人的に一番気に入らなかった章です.章名になっている姉妹二人ともの馬鹿さかげんが痛すぎた.朝奈はちゃんと描写されるのに,夕奈への視点移動が一切無いのが問題ともいえるのかもしれません.夕奈が何を思い何をしたのか,それらがあまり伝わってこない.逆に描写されていないからこそ読者で補完できればかなり良いものになったのではないかなという感触が,他人の評を聞いているとしてくるというのもあります.シナリオの展開的には,上手くやりさえすれば悪くなかったと思うのですが,一体何が足りなかったのでしょうね.この章で最大に恨むべきは銀糸? それとも朝奈? 夕奈? 主人公ですか? そんなわけで銀色の一部として見るのであれば,ともあれその流れは継承してはいるようですけども...
第四章 銀色
過去を上手く織り交ぜて進むいたって普通の章.普通ですが,普通なだけあって普通に楽しめた章でしょうね.気に入らない部分があるとすればそれはカウンセラーです.ただ私はカウンセラーという職業を知らないわけで,クライエントはそもそもカウンセラーを恨みやすいという話を鵜呑みにするのであればまあそうなのかなと思えなくも無いですし,それに場合によっては彼も犠牲者であると見れないことも無いのですけど.ただ,それにしても悪役として描かれすぎているのではないかと思います.展開として彼が悪役にならなければ誰もその役が出来なかったという部分もあるのでしょうが,もう少し考えて欲しかった.あとは特に文句はありません.どっちのあやめちゃんも可愛いですし,主人公も普通でしょう.多少不甲斐ない部分もあったかもわかりませんが,所詮人間なんてそんなもんだと思います.平行した過去の織り交ぜ具合は特に違和感も無かったので良し.演出として何か感じたかと言われると困りますが...ともあれ,総じて,悪くないお話だったと思います.
錆
一章から銀糸を絡めるように進んできた全四章,この章で輪を形成します.個人的には結び目も無く綺麗に輪を作ったそれは良く出来ていたと思います.結局これも銀色の流れを汲んだお話で救いようが無いですが...でもだからこそ銀色なのでしょう.ラストで彼ら彼女らが救われたのかどうか,そんなものは個人の解釈に過ぎないのでしょうけど,やっぱり,そう,救われなかったからこそ銀色なのかもしれません.一縷の希望が落とされて,それでよかったのだと,私は思っています.その一縷の希望が彼ら彼女らを救うことが出来るのか,それともただの希望で終わってしまうのか.そんなことはまあ,どうでもいいのです.
それが銀色の最後だから.